神様が死んだ翌日の話

2019年7月9日。神様が死んだ。
私は彼に1度も会ったことは無い。
だが間違いなく、大切な人だった。

1962年、彼はアイドル事務所を立ち上げた。
今じゃその名を知らない人はいない程大手の事務所であり、ブランドになった。
私は彼の事務所のアイドルのファンだった。
彼は面白い人だった。 
タレントの事を「You」と呼び、事務所に入所していてもない子供を
「Youやっちゃいなよ」と言ってステージに上がらせた。
そうして育った子供達は芸能関係者からも評判の良いタレントになった。

2019年6月18日。神様が倒れた。
報道を見た瞬間、私の心臓がドキン!と跳ねた。
でも私の中で彼は「神様」である。
「神様」は死なない。
そう思っていた。
いつかケロッと治って
「死ぬかと思ったよ」
と笑って話してくれるのではないかと。
でも、そうはいかなかった。

2019年7月9日。午後4時47分。
彼が。神様が死んだ。

私は少しだけ泣いた。まだ信じられなかったから。少しだけ。
ここで私が大泣きしてしまうと、私が事実を受け入れた事になってしまう。
それが怖くて、悲しくて、辛かった。

次の日は普通に学校へ行った。
きっと彼は「僕が死んだぐらいで休んじゃダメだよ」と言うと思ったから。
私は精神的な病気やトラウマで教室に行けず、保健室登校をしていた。
当たり前だが保健室には様々な人が来る。
怪我をした人。具合が悪い人。優しい人。乱暴な人。
気が使える人。無意識に人を傷つける人。
私はその中で「弱い人」だった。

同級生の男女2人が具合が悪くて保健室に来た。
私はカーテンで遮ってもらい、怪我の手当てやベットで寝る人には私の姿は見えない様になっていた。
でもたまに室内をうろちょろする人がいる。そうするとカーテンも無敵ではないので、その人から私の姿が見えてしまう。
その男子と目が合った。
別に見られる事は多々あるので平気な顔をして外を眺めた。
すると確実に私を見た筈の、私が彼の事、彼の事務所のタレントが好きなのを知っている筈の男子が言った。

「ジャニーズの人、死んじゃったね」

その一言が聞こえた瞬間、私の中の時が止まり地獄が始まった。

「あー死んじゃったね」
「次の社長誰?」
「タッキーじゃない?」

黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
うるさいうるさいうるさいうるさい。

しばらくこの様な会話が続いた。
私は「弱い人」だったので声を上げれず、目に涙を溜める事しか出来なかった。
会話が終わり保健室の先生が遮られたカーテンの向こうから入ってきた。
一緒にその会話をしていた先生を見た瞬間、我慢できず涙が溢れ出した。
大泣きし始めた私を見て、先生は慌てて「ごめんね。今する話じゃなかったよね」と言った。
私は先生が好きだった。
でもこの瞬間だけ。
ほんの一瞬だけ。
ぶん殴ってやろうかと思った。

私はしばらく泣き続けた。
保健室なんてそう広くない。
絶対に私の泣き声は彼の話をし始めた男子に、その話に乗った女子に聞こえていた。
でもその後、1回も謝られる事は無かった。

いつも思う。何故ただ「好きでいるだけの人が傷つけられるのだろうか」と。
ましてや今回に限っては話が違う。
タレントが不祥事を起こした訳でも、
活動を自粛や停止させられた訳でも、
グループを脱退した訳でも、
事務所を退所した訳でも、
逮捕された訳でもない。

人が1人死んだのだ。

何故平気で「死んじゃったね」など言えるのか。
何故彼が好きな人がいると分かっていてそんな事を話すのか。
何故私だけが泣いて、私だけが傷つけられなければいけないのか。
人はなんて残酷で酷い事をするのだろうと怖くなった。

私はこの2人を死んでも許さないと誓った。
将来この2人がどんな良い人になって、世界中の人から感謝されようと私は
絶対にこの出来事を忘れない。

当の本人は既に忘れているかも知れない。
ふざけるな。
私はお前らみたいな汚い人間に二度ともう屈しないと決めた。

好きでいるだけの人が傷つけられる様なクソみたいな世の中。
その世の中で彼の事務所のタレントの「ファン」をしている私達。
どうか私達で好きでいるだけの人を守ろう。
どうかもうこれ以上涙を流す人が、
私の様に人を恨む人が出ない様に、
私達で私達を守って行こう。

読んでくれてありがとう。